朝のルーティンで気持ちを切り替える
昨日のどうしようもない気持ちは、夜中にNHKの「新春東西お笑い寄席」を配信サービスで観ているうちに消えていったようでした。
結局、母に近づくことはできませんでしたが……。
朝がきて、それでも介護は続きます。
起きると、すでに朝の巡回で来てくれたヘルパーさんが、洗濯機の上に尿汚染したパジャマと防水シートを置いてくれていました。
まず1回洗濯機を回します。朝の日課です。
気持ちを切り替えて、母のもとにいくとベッドの中でまだ寝ていました。
「おなかすいた?」
感情を入れず、平坦に聞きます。
「すいた」
という返事。当然といえば当然で、母は昨日のことなんて覚えちゃいません。
数十分前にご飯を食べたことも忘れてしまうんですから。
淡々といつものルーティンを始めます。まず、りんごとかきをそれぞれ4分の1に切ったものを渡します。
本当は起き上がらせて食べさせないと誤嚥(ごえん)のもとですが、母は寝たまま横を向いて器用に食べることができるので、食べさせてしまうことが多いです。
ヘルパーさんはもちろん、きちんと起こして食べさせてくれています。ヘルパーさん自身も恐くて寝たまま食べさせるなんてことはできないでしょう。それにまた、母はヘルパーさんの言うことには従うのです。
でも、家族が言うことは聞かない。これは介護のあるあるです。
「そうね」と言って合わせておけばいい
私は大きな声を出すのが、もともととても苦手です。母は耳も遠く、認知症もあるので何度も何度も同じことを大きな声で言わないと通じません。
それでも私は母に対してそんなに大きな声を出して話をしないし、言うことがたいして通じなくても、そのままにしてしまっています。
これは余計なところにエネルギーを使いたくない私なりの節約です。大きな声を出すくらいなら、通じなくてけっこうというくらいに思っています。
母の言うことには、
「そうね」
と言って適当に合わせておけば、だいたいそれでなんとかなります。
在宅介護経験5年で身につけた知恵です。
果物を渡したら、次に朝昼兼用のおかゆの準備です。いつもお米2合分のおかゆを炊いて、小分けにして冷凍しています。それで8日分くらいにはなるでしょうか。
3分で解凍して、水を少々足し、塩と白だしで味付け。そこに刻んだネギを入れ、卵1個を溶いて、かけ回します。
トッピングは梅干しと「ふじっこ」の昆布の佃煮、そこにしらす干しをかけて、きざみのりを散らします。
あとは、たくあんか白菜の漬け物か、ときどき自家製のぬか漬けをつくっているので、それを出すようにしています。たまにらっきょうや、鯛みそ、海苔の佃煮も登場します。
そこに水と100%のりんごジュースを添えて朝昼兼用のご飯の完成です。
自分の感情を飼いならすしかない
いつものルーティンをしているうちに、昨日のことがますます遠のいていきます。
「今日は何日?」
「今日は何曜日?」
母はいつものように、話しかけてきます。
本当はまだそんなに優しくはできる気分ではありません。
しこりだらけです。
それはもう、取れないものなのかもしれない。
でも認知症を前にしたら何もなすすべはありません。仕方ないのはわかっています。
母からは若干遠慮がちな空気が伝わってはきます。
長い親子関係だからわかる空気感です。
だから、ぼけ切ってはいないんですよね……。
〈うーーん。もうどうしようもないなあ……。私だけがもやもやしても意味ないか〉
きっとすべてが終わったときは、全部許せてしまうのだろうし。
なんとなく自分の感情を飼いならし、しこりはあると思いながら、こうしてまた世話ができているからいいじゃないか。
今はそれでよしとしようとする自分がいます。
今年はもっと自分を大切に、自分に優しくしたい。
自分を大切にできるのは自分しかいないんだから。