食べることは人に残された最大の楽しみ

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人間の基本は食べること

私が自分のできる範囲で心がけている介護の最大のポイントは、ずばり「食」です。

母は86年間生きてきて、一度も歯医者に行ったことがない強者です。入れ歯の1本もなく、虫歯はあるのかもしれませんが、痛いと言わないのでそれですんでしまっています。

生まれ持って虫歯菌が活発にならない体質なのでしょうか。今はほとんど歯磨きもしないのに、たいしたものです。

このことは入院先や介護をしてくださるどんな方にも驚かれ、看護師さんやヘルパーさん方に母の鉄板ネタのエピソードとして提供してきました。

人間の基本は食べることにありますから、歯が丈夫なのは、大変な強みです。

母がなんだかんだこうして生きていられるのも、すべて自分の歯で食べられているのが大きな要因だと思います。

母は料理がうまく、私は母のつくる料理が大好きでした。どの家庭でもお母さんがつくる料理はおいしいものだと思っていましたから、それはとても幸せなことだと思います。

ハンバーグや煮物といったスタンダードなものはもちろん、焼き豚、ミートローフ、春巻き、グラタン……何をつくってもおいしく、よく私の友だちにも振る舞ってくれました。

ときどき、お友だちや親戚のおばさんに料理を教えていたようですし、父は母に「小料理屋を出せばいいのに」とよく言っていて、母もまんざらでもなさそうでした。

そんな母のおかげで私もおいしいものに目がないようになり、食に関連した仕事にもずいぶんかかわりました。

86歳になってもオール自前の歯の母。料理上手で、食べることが大好きな母。

私が介護をすることになって、母の食にこだわるのは当然といえば当然です。

ここまできたら好きなものを食べればいい

私なりのこだわりは、母に毎日食べたいものを聞き、なるべくその日か翌日に買ってきて食べさせることです。

母は今お刺し身を好むので、そのリクエストが多いです。うなぎやお寿司、ステーキと言うこともあるし、ピザやケンタッキーのフライドチキンのこともあります。

食に対してなにしろ貪欲。90歳を超えてもステーキが欠かせないと言っている瀬戸内寂聴さんとまではいかなくても、その時々に食べたいと欲すものを、それもいろいろな種類食べるのは、大変いいことではないかと思うのです。

もちろん私が面倒なときもあるので、そんなときは、

「今日はお刺し身食べたい?」
と思い切り誘導して質問して、

「うん、いいわね」
と無理やり言わせてしまうこともかなりあります。

母は心臓の手術をしているので、かかりつけ医からは塩分を控えるようにかなり強く言われています。

そして、糖質の取りすぎもただでさえ歩けず動かない母にはカロリーオーバーで体重も増えるし、よくないとわかっています。

実際、身長140cm(150cmあったのに縮みました。人間ってここまで縮むんですね)で50㎏とかなり太っていますし。

でも、もうここまで生きてきたんだから好きなものを食べればいいじゃないかと思い、ほとんど医者の言うことは聞かず食べさせてしまっているのが現状です。

母は塩辛い味を好みます。それに糖質を控えるといっても、お寿司やピザ、お菓子類などおいしいものはおいしいし、それらを制限してしまっては、食の楽しみもあったものではないです。

「おいしい」という笑顔が見られる幸せ

人間、体が不自由になったら、というか結局何が楽しみって「食べること」だと思うのです。

満足に歩くこともできず、家の中では介護ベッドと食卓、ポータブルトイレのせいぜい1メートルの範囲内を、物につかまってやっと移動するだけ。

ほとんどベッドで寝ているか、ベッドの縁に座ってテレビを見ているだけの生活です。

外出といっても、デイサービスが週2回あるだけで、月1回7日間のショートステイは母はできるなら行きたくないはずで、それは私の休息のために母が嫌々ながら行かせている「外出」です。

そうなってしまったら、もう人間食べるしか楽しみはないのではないでしょうか。

そして、母には最強のオール自前の歯がある。

だから私は、満足に歩くことはできなくても歯がありなんでも食べられることは、母に残されたかなり大きな幸せだと考えるようにしています。

母がリクエストしたもの、もしくは私がこれは喜ぶかなと思って買ってきたものを食べさせ、

「おいしい?」と聞いて、
「うん」

と笑顔で答えてくれる瞬間が、私は今一番うれしいかもしれません。

だから私はこれからも母の食べたいものを聞いて、できる限り買ってきてあげたいと思うのです。

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